22年度のグローバル・サプライチェーンは?

21年は新型コロナのデルタ変異株がひと段落ついても、結局は世界的なサプライチェーンの根詰まりが解消されることがないまま、年末のオミクロン株の流行を迎えてしまいました。一旦解消に向かいそうだった、コンテナ船問題も秋以降コンテナ価格も再上昇に向かい、アメリカの港湾も再び混雑が激しくなってしまいました。

アメリカの国内経済に目を向けると、12月の雇用統計の結果、失業率は下がりながらも雇用者数は伸びず、人件費単価の上昇がみられています。結局はコロナ前の、必要なところに必要な人が集まっていない。そのため、様々なところで事業が停滞して、ここでも根詰まりが生じています。

これは、グローバルで生産を行っている消費財製造メーカーの決算にもはっきりと出ています。消費者の消費意欲は旺盛ではあるが、モノがなくて機会損失があった。22年度も同様な状況だと。価格を上げることが出来る企業は、それなりの売上成長はありますが、価格を上げることが出来ない会社は、そのまま即業績影響として表れてしまいます。また、売上のフォーキャストも下がっています。3Qで一部の企業のフォーキャストが弱いことで、アナリスト予想に届かず失望売りがとても多かったと思います。そろそろアメリカ企業の4Qの決算発表が始まりますが、22年の価格を上げることが出来ない会社は、フォーキャストが弱くなるところが更に増えるのではないかと想像しています。

半導体の供給状況もおそらく楽観視できないと思います。21年も夏以降はとか、4Qには回復と言われていましたが、状況はまったく好転していません。一部の製造業は22年度一杯はもとに解決しないのではないかと想定しているようです。特に、ローエンドの半導体が不足しています。ハイエンドの半導体は、これからどんどん設備投資が出来ますが、このようなローエンドは、新しい設備が出来た後の、償却のある程度進んだ設備が使われています。なので、このような半導体不足は、構造的に解消するのは難しいということになってしまいます。

NIKEの決算 今後のサプライチェーンの脆弱性

アメリカ ナイキの22年度1Q決算が9月23日(木)に発表された。EPSが $1.16 でコンセンサスを $0.04をビートするも、売上高が12.25B (昨年対比+15.6% ) でコンセンサスを $220Mミスした。直営店の売上高やデジタル部門の売上高が飛躍したが、ベトナムを中心とした生産国がロックダウンし、思うように在庫が入荷できなかったことが原因です。

また、船便のリードタイムが従来40日だったものが、現在80日かかっていること、またそのコストが高騰していることから、22年の売上高見通しを大きく下方修正しています。

 

アメリカは、10月~12月が小売業のピーク。その時期に売る商品がないということは、とても致命的です。この傾向は、ほかのスポーツ・アパレル企業にも当てはまります。

 

ナイキの決算発表を受けて、アンダーアーマー、クロックス、ルルレモン、アディダス、JDスポーツといった会社の株価が下落しています。

サプライチェーンの脱炭素について

皆さん、日本の交通・運輸(自家用車含む)から出る二酸化炭素量は、日本の排出量全体のどのくらいかご存じでしょうか?答えは18.6%です。一番多いのは発電所などのエネルギー部門で34.7%となっています。2050年までにカーボンニュートラルを目標としており、年間排出量11億794万トンをゼロにする必要があります。

 

  • EV車にしたからといって、二酸化炭素ゼロになるわけではない

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欧米や中国で、急速にEV化の波がきています。ヨーロッパや米国カリフォルニア州では2035年以降はガソリン車禁止です。まさに大きなゲームチェンジが起こっています。

しかし、全てをEV車にしたからといって、二酸化炭素量がゼロになるわけではありません。なぜかというと、電気を作るのにも二酸化炭素を排出しているからです。現在の発電所の構成比だと、EV車の二酸化炭素排出量はガソリン車の30%だと言われています。当然、今後再生エネルギーの割合が増えてくると、電力由来の二酸化炭素量は減ってきます。

 

 

過去を振り返ると、色々な環境対応車がありました。天然ガスバイオ燃料、そしてEVの一種ですがハイブリッドなど。

日本の乗用車はかなりハイブリッドが普及しています。燃費性能の向上により、二酸化炭素排出量はガソリン車の55%から60%です。日本の充電ステーションのインフラ環境を考えると、過渡期としては一番の選択肢になります。しかし結局はエンジンを使いますので、カーボンニュートラルは困難です。

大型車両では天然ガス車が一部導入されました。軽油に比べてパワーが出ないなどの問題点はありましたが、二酸化炭素量は約80%になりました。

バイオ燃料は、残念ながらほとんど普及しませんでした。植物由来の油脂、廃油をバイオディーゼルバイオエタノールに精製して、燃料として利用するものです。植物は成長するときに空気中の二酸化炭素を吸収するので、二酸化炭素フリーとして一時期もてはやされましたが、精製するのが難しく、また長期間利用するとエンジンが傷むなど問題点が多かったこともあり、残念ながらほとんど普及していません。そういえば日本のとある会社は、ミドリムシからジェット燃料を作って飛行機を飛ばそうとしてましたっけ。あれは今どうなったのでしょう。

 

  • さいごに

 

 結局は電力そのもののカーボンフリー化を達成しない限り、輸送部門におけるカーボンニュートラルは難しいということです。これは、水素燃料、アルコール燃料にしても同様です。水や天然ガスを分解する電気が化石燃料由来のままだったら意味がありません。

再生エネルギーは発電量の繁閑があるため、それをコントロールするための電力系統用の蓄電池も必要になってきます。アメリカではTeslaからパワーウォールやメガパックといった製品が出ています。EV車も最後はバッテリーが一番のキモになりましたが、再生エネルギーにおいてもバッテリーが重要ということでしょうか。そうなると、日本も今やタブー視されている原発の再稼働を真剣に考えなければならないかもしれませんね。

コロナβ株の意外な影響はこれから!

アメリカは世界でいち早くコロナ禍から回復し、人々は街に出て、経済も再開しています。しかし、β株の影響はこれから少しずつ出てくるかもしれません。アメリカ国内のβ株感染はおさまりつつあります。8月の雇用統計が悪かったのは、β株の影響でレジャー関連の雇用が一時的に停滞したからだと分析されています。一方、ベトナム、タイ、マレーシアなどの東南アジアではまだ収まっていない国が多いのです。

 

  • どんな影響がでるのか

 

ナイキのシューズを一番生産してるのはどこの国か、皆さん知っていますか?答えはベトナムです。アディダスニューバランスなどの人気のスポーツメーカーや、ギャップなどのアパレルメーカーも同様です。ベトナムは今や中国に続く世界の工場になっています。しかも7~9月といえばちょうど秋冬物の生産をする時期。この時期の生産が出来ないということは、これらのブランドの秋冬物の商品が店頭に並ばないということです。小売業にとって大打撃と言っていいでしょう。

また、機械パーツもこれらの国で多く作られています。半導体不足で自動車や電機機器の生産が遅れているのはよく聞きますが、その他パーツも不足するとますます工業製品の生産に打撃を与えることになります。各メーカーの購買担当者は、当然急いで代替生産できる国を探すでしょうが、一定期間の影響は出てくるでしょう。

 

  • SCMのリスク分散

 

 かつては中国が世界の工場でした。次第に人件費が値上がりし、またカントリーリスクも顕在化してきたことから、東南アジアやインドへと生産を移行させています。一連のコロナ・パンデミックでの学びは、地域の分散によるリスク回避とある一定量の国内回帰です。アメリカは、重要物資の生産をアメリカ国内に戻そうと、大きく方針転換をしました。日本も半導体を中心に同様の試みをしています。

 インダストリー4.0の中、急速な勢いでデジタル化、ロボット化が進んでいます。そうなると人件費の差による生産コストの違いは、これまでと比べると格段に減ってきています。今まで安い賃金を頼って新興国に進出していましたが、今後それほど必要なくなるかもしれません。少なくとも、グローバルベースで全量の生産を任せる必要はなくなるでしょう。規模のメリットは求めながらも、リスク・リワードと最適立地の観点から、生産拠点が選ばれることになると思われます。

 

  • さいごに

 

 β株によるスポーツブランドの生産遅れの話に戻りますが、秋冬物の生産がクリスマス商戦に間に合うかどうかが鍵になると思います。船便でベトナムからアメリカまで1か月以上かかりますので、9月中に生産出来なかったら、11月末から始まるクリスマス商戦に間に合わないかもしれません。それまでには、コロナが収まってくれることを祈るばかりです。